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【現役看護師の考察】新型コロナウイルスのPCR検査の件数はなぜ増えなかったのか

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※この記事は医療現場で働く看護師が集めた情報から書かれた記事です。
内容は全ての地域、全ての医療機関に通じるものではありません。

 

新型コロナウイルス核酸検出の保険適用に伴う行政検査の取扱いについて

令和2年3月6日よりPCR検査が保険適用に

以下は3月4日に厚生労働省健康局より出された文書です。一部抜粋しています。

健感発0304第5号
令 和 2 年 3 月 4 日
都道府 県
各 保健所設置市 衛生主管部(局)長 殿
特 別 区
厚生労働省健康局結核感染症課長
(公印省略 )
新型コロナウイルス核酸検出の保険適用に伴う行政検査の取扱いについて
今般、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)について、今後、新型コロナウ
イルス感染症にかかる検査の需要が高まること等を踏まえ、「SARS-CoV-2(新型
コロナウイルス)核酸検出」が保険適用される。これを踏まえ、感染症の予防及
び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成 10 年法律第 114 号。以下「感
染症法」という。)に基づく行政検査の取扱いについて下記のとおりとりまとめ
ましたので、十分御了知の上、その取扱いに遺漏のないようにされたい。なお、
この取扱いは、保険局医療課にも協議済みであること申し添える。

(1)行政検査の委託
○ 現在、新型コロナウイルス感染症については、行政検査として行っている
PCR 検査でなければ、感染が疑われる者が新型コロナウイルスを保有してい
るか確認できず、当該検査でウイルスを保有していると確認され感染者と
判明した場合には、新型コロナウイルス感染症のまん延防止及び本人に対
する治療の観点から、都道府県知事、保健所設置市長又は特別区長の判断で
感染症法に基づく入院勧告等を行うこととしている。
したがって、新型コロナウイルス感染症にかかる PCR 検査は、新型コロ
ナウイルス感染症のまん延防止に加えて、本人に対する感染症の治療へ繋
げる観点から行われているところである。
○ 今般、PCR 検査に保険適用されるが、現在のところ、医師の判断により診
療の一環として行われ、帰国者・接触者外来を設置している医療機関等にお
いて実施する保険適用される検査については、前述の行政検査と同様の観点
を有することから、同検査を実施する医療機関に対して、都道府県等から行
政検査を委託しているものと取り扱い、当該検査費用の負担を本人に求めな
いこととする。
(2)具体的な事務の概要
①事務の流れ
感染症指定医療機関、それ以外の医療機関で感染症法第 19 条又は第 20
条に基づき入院患者が入院している医療機関、帰国者・接触者外来及び帰
国者・接触者外来と同様の機能を有する医療機関として都道府県等が認め
た医療機関(以下「感染症指定医療機関等」という。)
と都道府県、保健所
設置市又は特別区(以下「都道府県等」という。)において、感染症法第 15
条に基づく調査(SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)核酸検出にかかる診
療報酬の算定要件に該当する場合に限る。)に関する委託契約を締結する。
なお、契約が3月6日より後となった場合であっても、3月6日以降行っ
た診療分から適用する。
(別添「感染症法第 15 条に基づく調査に関する事務契約書(案)」参照
○ 感染症指定医療機関等が PCR 検査を実施。感染症指定医療機関等は、診
療に係る自己負担額を受診者から徴収する際、PCR 検査料(「SARS-CoV-2(新
型コロナウイルス)核酸検出」)及び検体検査判断料のうち微生物的検査判
断料(初再診料などは含まない。)にかかる自己負担に相当する金額として、
以下②に定める都道府県等が医療機関に対して支払う金額分を受診者に支
給する。(受診者の負担と相殺することも差し支えない。)
○ 感染症指定医療機関等は上記で受診者に支給した金額を毎月、都道府県
等へ請求する。その際、費用の積算などの必要な資料をあわせて提出する。
○ 都道府県等は請求に基づき、感染症指定医療機関等へ支払う。
〇 感染症指定医療機関等は、本契約に基づき実施した検査の結果について
その結果を問わず、速やかに所管の保健所に報告する。

さて、

新型コロナウイルスの検査であるPCR検査が保険適用となる

との報道を耳にした方はどのように思ったでしょうか。

保険適用 = 医療機関で希望すれば検査できる

と思った方がかなり多くいたのではないかと思います。

ところが冒頭の文書が出されて、結局ふたを開けてみれば一部の決められた医療機関でしか検査を行うことはできないことが分かりました。(赤マーカー部が医療機関を限定している部分です)

 

それでも感染症病床や帰国者・接触者外来を行っている医療機関であれば、受診して検査できるのでは?と思われる方もいるかもしれません。

ところが、問題がさらに別のところにありました。

 

PCR検査は遺伝子検査であり一般の病院では行えない

PCR検査は検査委託業者に依頼して行う

病院がPCR検査を保険適用にて行おうとするなら、方法は検査委託業者に依頼するしかありません。

通常、病院は検査委託業者と契約しており、自病院で行うことのできない検査を依頼します。

PCR検査もこのように委託業者に依頼して行うことになります。

 

そもそもPCR検査とはどういう検査なのか?

遺伝子はそのままでは目で見ることはできません。しかし人工的に、増やしたい部分だけを増やすことができるようになり、特別な装置を使えば目で検出することが可能になりました。遺伝子増幅技術の代表的なものがPCR法です。

PCR法は、増やしたい遺伝子のDNA配列にくっつくことができる短いDNA(プライマー)を用意し、酵素の働きと温度を上げ下げすることで、目的の遺伝子を増やす方法です。増えたDNAを染め出す特殊な装置に入れる事で、増えた遺伝子を目で確認する事ができます。検体の中に増やしたい遺伝子があれば増えて目で確認することができ“陽性”と判定されます。しかし、検体の中に遺伝子がなければ増えないので、目で確認することはできず、 “陰性”と判定されます。

引用元 日本微生物研究所
http://www.biseibutu.co.jp/tabid/148/Default.aspx

ところであまり知られていませんが、PCR検査は陽性が出ても感染していなかったり(偽陽性)、陰性が出ても実際には感染していたり(偽陰性)することがそれなりにある、不安定な検査です。

 

PCR検査の金額(保険点数)と実際の費用は?

新型コロナウイルスのPCR検査は1800点と定められました。

1点=10円で計算すると18000円となります。

それではこの検査を委託業者に依頼すると費用はいくらかかるでしょうか。

なんと新型コロナウイルスのPCR検査についてはどこの業者も口裏を合わせたように

検査の費用は18000円

と答えてきたのです。

これには私も「おや?」と思いました。

一般的に、検査を委託業者に依頼すると、保険点数による金額よりも安い費用で行うことができます。

医療機関に利ザヤを持たせることで、委託業者は自分の会社で多く検査を行ってもらうよう営業をかけることができるわけです。

 

また、指定感染症の検体の輸送にはそれなりのコストがかかります。

例えば今回の新型コロナウイルスの輸送の場合、国立感染症研究所からマニュアルが発行されています。

画像引用元:国立感染症研究所
2019-nCoV感染を疑う患者の 検体採取・輸送マニュアル

このような容器を準備するだけで数千円~1万円程度かかります。

さらにこれを封入するマンパワーなど考えたらそれなりのコストです。

こういった梱包費と輸送費は病院持ちになります。

つまり、新型コロナウイルスのPCR検査を検査委託業者に依頼すればするほど、医療機関は赤字が発生するわけです。

ましてや指定の医療機関であれば保健所と相談して行政検査として行い、国の負担で検査できるのです。

これでは医療機関はよほど必要な状況にならない限り、わざわざ検査を行うことはありません。

 

ところが皆さんがご存じの通り、行政検査を行うには患者の病状に一定の基準が設けられていました。

ですので症状が軽く行政検査の対象とはならない患者の前では

うちの病院では新型コロナの検査はできない

と答えるしかないのです。

 

どうしてこのようなことが起きたのか?

検査委託業者の立場からすれば、ここで価格を抑えて営業すればシェアを獲得できるチャンスです。

しかしそれをせず、ましてや病院に利ザヤを与えず検査を行うことにまったく協力的ではありません。

一体この件の裏側ではどういうことが起きていたのでしょうか?

色々勘ぐりたくなってしまいますね。

 

おわりに

と、こんな記事を書いておいてなんですが私自身はPCR検査は多ければ多いほうが良いという考えには懐疑的です。

先述の通り、PCR検査は感染を100%見抜く検査ではありません。

偽陰性、偽陰性がそれなりに発生してしまう検査です。

下手に不確定な検査で診断を付けるよりも「疑わしい」状態を維持したほうが、感染を防ぐことができます。

検査にこだわらずに各自しっかりと感染防止に向けた対策を行うのがベストな選択肢なのです。

 

 

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