2020年診療報酬改定で地域包括ケアはどのように変わるのでしょうか。
地域包括ケア病棟って?
2014年度の診療報酬改定で急性期の病態を過ぎた患者、または地域の在宅・施設におり急性期に入るほどではないが病状の悪化した患者など、病院や周辺地域の状況に合わせて幅広く受け入れのできる病床として新設されました。
厚生労働省の提唱する「ときどき入院、ほぼ在宅」の入院する病棟としての機能が期待されています。
この病棟が新設された表向きの理由は上記の通りですが、もうひとつの目的として単価の高い7対1病棟の削減があったと思います。
つまり、国は7対1病棟から地域包括ケア病棟への移行をある程度期待していました。
そのため地域包括ケア病棟の入院料は急性期病棟まではいきませんがそこそこ高い金額に設定されたのです。
これによってどのようなことが起きたのでしょうか。
地域包括ケア病棟が7対1病棟の隠れ蓑になってしまった
7対1病棟は主に急性期の患者を受け入れるための病棟ですが、それだけに単価が非常に高く、医療費の高騰の一助となってしまっているため国も頭を悩ませています。
ですのでなるべくこの病棟の数を減らそうと、年々算定の要件を厳しくしてきました。
ひとつは平均在院日数の短縮、ひとつは看護必要度の導入と基準の厳格化です。
これらは効果はいまいちでしたが、それでも若干の効果はありました。
ところが、地域包括ケア病棟をうまく使うことで7対1病棟を復活・維持させる病院が現れたのです。
例えば4病棟全てが7対1病棟である病院があったとします。
7対1病棟の平均在院日数の基準は18日以下です。シンプルに言えば入院してから平均18日しか入院させておけません。
そこで4病棟のうち1つを地域包括ケア病棟に変えるのです。
地域包括ケア病棟入院料は最大で60日算定が可能ですでの7対1病棟に比べれば入院日数に余裕を持つことができます。
つまり7対1病棟をなかなか出られない患者を地域包括ケア病棟へ移すことで7対1病棟の平均在院日数を短縮することができるのです。
また、看護必要度においても同様のことが起こります。
看護必要度とは?
正確には重症度、医療・看護必要度と言います。
患者さんの病態の重症度を表す指標のようなものと考えて下さい。
7対1病棟では看護必要度の面でも一定の水準が求められますので、基準を満たす患者(=看護必要度の上で重症と判定される患者)を7対1病棟に残し、満たさない患者を地域包括ケア病棟へ移動させることで、7対1病棟の要件をクリアできるようになります。
以上により地域包括ケア病棟は多くの病院で申請されました。ところがそれ程急性期の患者を受けているわけでもない病院でも7対1病棟を維持できるようになり、いわゆる「なんちゃって7対1」「なんちゃって急性期」と呼ばれるような病院が出てきてしまったのです。
ただただ国の要件の設定が甘かったという事ですね。
また、これだけでなく地域包括ケア病棟は経営面からも非常にメリットが高い病棟となっています。
DPC制度の低日当点患者の受け皿に
DPC制度では基本的に入院した日からの日数に応じて3段階で入院料が安くなっていきます。
特に3段階目は1万円後半~2万円台前半の金額にまで下がることが多いので、この3段階目に落ちる直前あるいは落ちると同時に地域包括ケア病棟へ転棟させます。
あるいは2段階目の金額でも安ければこの時点で転棟させます。
地域包括ケア病棟へ転棟してしばらくは3万円を超える入院料を算定することができます。
するとDPC制度の入院料の高いところだけを拾い、さらに地域包括ケア病棟の高い入院料を算定して退院という患者さんからしたらどうも納得の行かない流れが出来上がってしまったのです。
この方法は非常に効果が高く、多くの病院で取り入れられることとなりました。
それもそのはず、病院の規模によっては年間数千万円以上の増収効果があるのです。
2018年度診療報酬改定では本来の目的である在宅の患者の受け入れがそれほどされていないことを鑑みて院内転棟ではなく在宅から入院させた場合に加算を付けるという施策を国は打ち出しました。
しかし、対象が200床以下の病院だけだったこともあり、中規模以上の病院の傾向はほとんど変わりませんでした。
2020年度診療報酬改定による大病院の地域包括ケア病棟の行く末は
そして、2020年度改定。
とうとう国はアッタマキタ!と言わんばかりの施策を打つこととなりました。
(自分たちの見通しが甘かっただけなんですけどね!)
400床以上の病院は新設不可、既設の病院でも非常に厳しい要件が追加
規模の大きい病院は地域包括ケア病棟を作っちゃダメ!
あと、もう作ってあるトコも院内転棟しまくってるとこはもうダメ!そんな病院は入院料10%カットしちゃう!
つまり、大規模病院は地域包括ケア病棟のあまーい恩恵を受け続けることが実質不可能となった形です。
これには多くの病院が頭を悩ませているにちがいありません。
さて、こうなると該当の病院の選択肢はそう多くありません。
①地域包括ケア病棟をやめて他の病棟に転換させる
②頑張って要件を満たして続ける
③減算されながら同じ運用を続ける
この3択となります。
まず①。
地域包括ケア病棟は一般病床でも療養病床でも作ることができたので、ここでも2通りに分かれることになります。
①-1 一般病床であれば、急性期病棟に戻すことができます。
他、回復期リハビリテーション病棟や、工事など必要になりますが需要によっては緩和ケア病棟も選択肢に入ります。
②-2 療養病床の場合、ほとんど選択肢はありません。療養病棟か回復期リハビリテーション病棟くらいでしょうか。
看護師確保がよほど難しければ介護医療院というのもありますが、大きく減収という選択肢となります。
次に②はどうでしょう。
地域包括ケア病棟の本来の目的を見つめ直し、地域の医療機関、在宅医療を担う事業所などと連携を強化し、在宅で増悪した患者やレスパイト入院を増やすことで院内転棟以外の患者を増やしていくことになります。
そうなるともう何がなんやらわからないことになりますね・・・
最後に③については減算前と減算後で試算することでなんとなく収入が見えてきます。
入院単価等は自院の数値で調整する必要があります。
40床規模で地域包括ケア病棟を持っている場合、減算後はプラス5床の稼働により同じ収入を得ることができます。
でも何もしないと1病棟で年間4000万円もの減収です。
今回の改定で、大病院における今までの地域包括ケア病棟の使い方にメスが入ったことになります。
次回以降の改定で、減算される条件がより厳しくなったり、減算の割合が大きくなったり、さらには減算どころか入院料算定不可へということも十分考えられます。
地域包括ケア病棟を持つ病院にとっては、自病院の立ち位置をしっかりと理解して地域包括ケア病棟の今後のあり方を考える時期に来ていると言えます。