多くの病院で使われている「クリニカルパス」とは一体どんなものなのでしょうか。
クリニカルパスの語源、クリティカルパスとはプロジェクトの重要な経路
クリニカルパスはもともと製造業等のプロジェクト全体のスケジュールのうち、最短となるための重要な経路(フロー)を指します。
製造業におけるクリティカルパスの例
例えばある製品を作るのに次のような工程A~Dが必要だとします。
工程ABCはお互いの工程に影響しませんが、工程Dは工程ABCで作成される部品を使って組み立てるので工程ABC全て完了しなければ工程に入れません。
この場合、工程BとCは工程Aに比べて余裕があり、工程Aよりも遅くならない範囲で遅延しても全体の工程に影響は出ません。
逆に工程Aと工程Dは遅延してしまうと全体の工程に遅れが出てしまうことになります。
このような最短時間でプロジェクトを完了させるための経路をクリティカルパスと呼びます。この例の場合だと工程A→工程Dがクリティカルパスとなります。
クリニカルパスは標準的な治療計画
クリニカルパスはこの考えを元に医療用に作られた、いわば治療の工程表です。
クリニカルパスは経過日数毎に行われる治療や検査、リハビリ、患者の状態の評価方法などがあらかじめ決められています。
疾患毎にクリニカルパスを作成し、同一疾患には同一のクリニカルパスを使うことで、患者さんに標準的な治療やケアを提供できるのです。
また、看護師やコメディカルもクリニカルパスを使うことで、前もって治療内容の計画が理解できることで、効率的に患者さんのケアを行うことができ、現場の負担軽減につながります。
クリニカルパス=クリティカルパス?
医療用ということでクリニカルパスという名称が付けられましたが、近年のクリニカルパスはいかに効率よく治療を行い患者さんを早く退院させるか、という視点で作られているので、まさに本来のクリティカルパスという言葉でも違和感が無いと思います。
クリニカルパスはどのように作られるのか
DPC制度との関連
昔は医師の治療方針に沿って作成されることが主流でしたが、現在は国が公開している診断群分類(DPC)ごとの平均在院日数がデータとして簡単に手に入りますので、平均在院日数以内で退院させることを前提にクリニカルパスを作成していきます。
全国の平均在院日数が見えているのですから、最初からそれを超える治療計画は標準治療とは言えないからです。
病院の経営面においてもクリニカルパスは重要
また、そのパス通りに治療を行った場合にかかる薬剤や検査等のコストも明確にわかるので、DPCによる入院収入と比較してコストがかかりすぎていないかをチェックすることができます。
ここでコストが全然足りていない、またはかかりすぎているようであればやはり標準治療とは言えないことになります。しかしできるだけコストをかけないほうが病院の収益には繋がるので、患者さんへの影響が出ない範囲において、例えば1回の入院中に検査やレントゲン撮影を2回やっていたところを1回にできないか等の検討は医師とよく行っています。
様々な病院で効率の良い標準治療というのが常に練られているんだね
疾患によっては関連学会から診療ガイドラインを参考にしてクリニカルパスを作ったりもしているよ。
アウトカム評価とは
アウトカム(outcome:成果・効果)評価とは患者さんに対してクリニカルパスで治療を行っていく中で、クリアしていくべき項目を達成できているかどうか、医療者から見て患者さんが望ましい状態になっているかの評価となります。
アウトカム評価の例 バイタルサイン 神経症状 呼吸状態 など疾患によって多岐にわたります
アウトカム評価はなぜ必要なのか?
アウトカム評価が達成されなかった場合を「バリアンス」と言います。
バリアンスが発生した場合、想定通りに治療効果が出ていないことになります。
ですのでバリアンスの数や度合いによってはクリニカルパスによる治療を継続するかどうかの判断を医師に確認する必要が出てきます。
バリアンスによってクリニカルパスを中止することを「逸脱」と呼びます。
多くの場合、バリアンスは患者にとって悪い状況であることが多いですが、逆に想定よりも治療効果が良い方向で出て早く退院することでクリニカルパスを逸脱する場合もあります。
患者にとって悪いバリアンスを「負のバリアンス」、逆に良いバリアンスを「正のバリアンス」と呼びます。
逸脱が発生した場合、バリアンスの状況をデータ化して分析を行うことでより良いクリニカルパスへと検討を重ねることができるのです。